現在の中小企業における課題のなかで、既存のシステムに頼っていては解決が難しいものがあります。その場合、既存の組織の枠を取り払い、新しいIT技術を取り入れる「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が必要となるでしょう。
ここでは中小企業が直面する課題と、それを解決するためのITサービスや技術について例を交えつつ解説します。DXはなぜ必要なのかを知り、自社の課題解決や業務効率化への参考にしていただければ幸いです。
システム更改の問題や被災リスクを回避:クラウド
【解決すべき課題】
- 既存システムの更改リスク
- BCP(災害やテロ)対策
デジタル機器やITシステムを導入してしばらく経つと、陳腐化が目につくようになってきます。そのままにしておくと業務の停滞のみならず、場合によっては事業が立ち行かなくなる事態を招く恐れがあります。
たとえば、既存システムが現行のパソコンと互換性がなく、古いWindowsパソコンの使用をやむなく継続せざるを得ないケースがあります。企業によっては長年使用していた基幹システムのベンダーサポートが終了し、新システムへの移行がままならないケースもあるといいます。システム更改リスクは中小企業にとり、無視できないものです。
また、被災リスク回避のため、本社一極集中を避け、拠点分散を検討している中小企業もあるのではないでしょうか。その場合でも、本社システムのダウンにより、業務継続が困難になる可能性があります。
このような問題の解決手段にクラウドサービスがあります。システムが随時更新されるため、互換性やサポート終了、セキュリティの問題に悩まされることがなくなります。また、万一どこかの拠点が被災にあっても、他の拠点で業務継続を図ることもできるのです。
今や実務用のクラウドサービスは多くあり、経理や人事・労務、グループウェアなどさまざまあります。業務用のクラウドサービスには馴染みがなく、不安だと感じる方もいるかもしれません。しかし、今はどの企業でも導入しているMicrosoft Officeですらクラウドで提供されるようになりました。現在クラウドサービスを全く使っていなくても、いずれ選択を迫られる時期が来ることでしょう。今のうちにクラウドサービスの検討を開始されることをおすすめします。
限られた人材をコア業務に向ける:RPA、AI
【解決すべき課題】
- 人手不足
- 業務量の平準化
- 人材の有効活用
人材のひっ迫など、事業環境の変化に対応するため、既存の体制に代えて、新しいIT技術を導入しうまく対応をしていくこともDXといえます。
昨今の事業環境において無視できない問題に、労働人口の減少があります。中小企業であればなおのこと、人手不足は深刻です。自動化できる業務をシビアに見極め、コア業務に人を振り向ける効率化がより求められます。
現状、定期的もしくは一時的に発生する膨大な業務に、かつてのように臨時要員を調達して対応するのは困難になりつつあります。常勤社員の作業時間を増やしても、コストがかかるばかりか期日までに業務を完了できない恐れもあるのです。
この問題に有効な手段となりうるのがRPAです。RPAとはパソコン業務の自動化プログラムのことです。単純な操作処理や調査など、簡易なパソコン作業をRPA(=バーチャルロボット)に任せることができます。人と違って24時間稼働でき、単純作業によるケアレスミスを起こしません。自動ロボットに任せることで、繁忙期のマンパワー不足の解消、業務の質を担保できます。
さらにRPAには任せられない書面手続きや、顧客の問い合わせなど人による対応が必要なものもあるでしょう。これには筆跡や文章の解析が可能なAIシステムにより、ある程度自動化できます。コンシューマーからの問い合わせが多ければ、専任の対応者の代わりにAIチャットボットに回答させたり、必要な手続きに誘導するのも有効です。
IoTを活用した業務効率化:5G
【潜在的な課題】
- 物理的な制限の突破
- 大容量データを扱いたい
- 運搬作業の自動化
緊急性がなくても、新しいIT技術の活用によって他社より一歩抜きんでることも可能です。
代表的なのは、2020年3月に国内で提供が開始された「5G」です。5Gは高速大容量で低遅延、多数同時接続可能な移動通信システムのことで、従来のシステムに比べて通信性能が飛躍的に向上しています。これにより、さらなる効率化や新サービスの創出も見込めることでしょう。
5Gによる効率化の例に、現行の作業環境の改善や、人では対応が困難な作業の実行があります。多数の機器を同時にIoT接続することで、人員や機器の配置を自由化できたり、高所など危険な場所で、ロボットを介してタイムラグなしの操作実行も可能です。
また高速・大容量の送受信が可能なため、今までは難しかった個店の販売データなど、大量データの収集・処理や分析が容易になるでしょう。
多頻度・少量・多品種の煩雑な物品運搬作業を5Gで自動化できれば、かなりの効率化が見込めます。製造現場で多数の部品を扱ったり、物流センターでの仕分けなど、細かくてかなり集中力が必要な作業を自動化できれば、かなりの省力化が実現するはずです。
ただし、5Gの活用にあたってはまとまった投資が必要になることに注意しましょう。通信インフラだけでなく、各機器やロボットのIoT化、またモニタリング用の機器やシステムがないと、実際に制御や自動化が行えないためです。
まとめ
既存システムに依存する問題や、事業環境に対応するため、中小企業であっても組織改編を含めたDXの実行が必要になってくるでしょう。
ITを活用した業務効率化に加え、他社より一歩先んじて新しい通信技術を活用する動きも出てきています。
まずは現在のIT環境や業務システムを必要に応じてアップデートし、余力を持って新しいITの活用を進め、さらなる飛躍につなげていきたいものです。